マイクル・コーニィ『ハローサマー、グッドバイ』

読み終えた後にいい本だったと思ったのなら感想を書いてみよう。その感想を読んだ人が手にとってくれるかも知れないし、なにより自分がそうだったのだから。

(具体的なストーリーや世界観のことが知りたい人は別のページを探して下さい。それなりに読まれている本なので、レビューはたくさんあります。)

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 この小説をSFと受け取るか、それとも青春恋愛小説、いやいや、いかにもイギリスっぽさを感じる階級をテーマとする暗鬱なディストピア小説だと理解するか、色々な読み解き方があると思うんだけど、僕としてはこの作品の青春(恋愛)要素に恋をした。

ブラウンアイズの少女としての魅力、物語序盤の瑞々しさにあふれた可憐なるヒロインっぷりや、後半の主人公(ドローヴ)に対する一途な愛情と積極さのギャップにぐいぐいと惹かれてしまった。

そして、ドローヴが少年らしく不器用に、まっすぐにブラウンアイズの愛に応えようと奮闘する様子に時々自分と重ねあわせて顔を赤くしながら読み進めていくことで、これは青春(と恋愛)小説なのだと自分なりに作品を消化していた。

さて、物語の中盤以降になると、SF的な世界観の骨組みの中で進行していく主人公ドローヴとブラウンアイズ、サブヒロインのリボンと噛ませ犬・ウルフ達の青春に、階級社会や親子関係が戦争の暗い影とともに少しずつ忍び寄ってくるようになる。

それまでの伏線が一気に回収されて物語は大きく転換し、賛否ある結末へ向かっていくのだけれど、終盤にリボンが運命に飲み込まれて豹変してしまうシーンは読み終えてからもしばらく頭から離れてくれないものだった。受け取り方によっては、ドローヴとブラウンアイズの恋が純粋で美しすぎるがゆえに、あの場面のリボンの言葉に鋭さを与えてしまっていたのだろう。

結末については、他の人のレビューを見ると賛否があるようだが、物語のまとめ方として良いものだったと思う。それまでのSF的な伏線を一気に回収して、ハッピーエンドを示唆してお話は終わる。

また少し時間が経って、話の細かいところを忘れてた頃にもう一度読みなおしてみようと思う。